映像識別技術の急速進歩


カメラで撮影された顔の映像を識別する技術が急速な進歩を遂
げている。


個人を特定する「顔認証」、不特定多数の性別や年齢を推測す
る「顔認識」。


メリットをもたらす半面、SF映画さながら「知らずに自分の
行動が追跡される世界」も一歩手前に迫っている。


どういう技術で、どのように使われているのか探った。
人気テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(大
阪市)の入園ゲートを訪れた来場客。
手にチケットはない。


設置されたカメラが顔を撮影すると、1秒とたたずにゲートの
ロックが解除され、列をなす他の客を尻目にゲートを通過した。


このサービスは顔認証技術を利用したもので、年間パスポート
を購入した客に提供される。


利便性や一般客への優越感もあり、人気を集めているという。


顔認証は、人の顔の特徴をつかみ、データベースと照合して個
人を特定する技術だ。


空港の監視カメラやスマートフォンのロック解除など、「なり
すまし」防止に使われることが多い。


米国の評価機関に顔認証の精度が「世界一」と認定されたNE
C(東京)のシステムでは、顔画像を複数の部分に分割し、顔の
凸凹具合などを数値化。


データベースの中で、各部分の類似値が最も高い人物を同一人
物と推測する。


正面の撮影など条件がそろえば99%以上の精度といい、ひげ
やかつら、多少の整形手術はもちろん、一卵性双生児の違いも
見破る。


 ◆「次世代の自販機」

類似の技術に、個人を特定せず顔の各部位や輪郭、しわなどか
ら、性別と年齢層といった属性を推測する「顔認識」がある。


首都圏に500台導入された「次世代自販機」は搭載カメラで
客の属性を推測。


「多くの男性会社員が小腹を満たすため、夕方に甘い飲料を購
入する」といった傾向をつかみ、属性に応じたお勧めの飲料の
ランプを点灯させて提案する。


集客力は普通の自販機の1・5倍という。


日立ソリューションズ(東京)が開発したシステムは、年齢層
と映り込んだ秒数を表示。


商業施設の入り口に設置すれば、どういった客がどの時間帯に
多く出入りするか、売り場であれば何に興味を示したかが把握
でき、商品開発やレイアウト改善に生かせる。


このようにリアルタイムで得られる大量のデータは「ビッグデ
ータ」と呼ばれ、マーケティングなどで利用されている。


ある社の担当者は「企業はビッグデータを喉から手が出るほど
欲しがっている」と指摘する。


 ◆捜査にも応用可能


2002年の米SF映画「マイノリティ・リポート」には、街
中に設置された認証装置が通行人の網膜を自動スキャンし、個
人を特定した上で次々と広告が映し出され、名前を呼びかけて
くる一幕がある。



これは顔認証の“未来版”といえるが、東大生産技術研究所
佐藤洋一教授(46)は「今後5〜10年で技術はかなり進歩
する。
技術的に映画のような世界はあり得る」と予測する。


交流サイト「フェイスブック」など、ネット上に“データベー
ス”となり得る顔写真を実名つきで登録する人も多い。


認証精度がさらに上がった将来、街中の防犯カメラからネット
経由で送信された映像データがハッキングで盗み出され、ネッ
ト上の顔写真と照合されることになれば、居場所を特定される
恐れもあるという。


佐藤教授は「将来、犯罪捜査に本格導入されれば飛躍的に捜査
の効率が上がる」と治安上のメリットを指摘する一方、「デー
タの管理、運用を厳格にする必要がある」とクギを刺す。


 ■「使用基準作り急務」

顔を識別する技術は目新しく、消費者が不安を感じてしまいが
ちだ。


個人情報問題に詳しい岡村久道弁護士(55)は「使用基準を
早く定めるべきだ」と指摘する。


個人情報保護法は個人を識別できる情報を「個人情報」と規定。
取得した個人情報の用途を伝える義務がある。


年齢などの属性を推測する顔認識では、企業側は「すぐに画像
データは消去され、残るのは属性情報だけなので個人情報には
当たらない」と説明する。


しかし、どこまでが個人情報に当たるのか、司法は具体的に示
していない。

国は昨年11月、研究会を設置して問題点の洗い出しと指針の
検討に着手。


岡村弁護士は「『本当にデータは破棄されているのか』と疑念
を持たれないようにするためにも、早急な透明性の確保が必要」
と訴える。


画像認識による犯罪捜査の効率化という大義名分と個人情報と
の兼ね合いはどう調整できるのか、一抹の不安を覚える。


それ以上に危惧の念を抱くのは、これがマーケティングに応用
されて、商品販売にもこの手法が取り入れられることにより、
商品選別にまで、業者の誘導により選択肢が決まってしまうこ
との空恐ろしさが付き纏う。