終電車

些か旧聞に属するが、4月15日、ニューヨークを訪問した
猪瀬直樹東京都知事が、「東京も公共交通を24時間化する」
と表明し、ネット上では様々な意見が寄せられている。


猪瀬知事は、ニューヨークで行った講演で、「ニューヨー
クでは地下鉄が24時間運行しているが、東京は1日のうち3
時間くらいは動いていない」と指摘。


東京での地下鉄24時間化はメンテナンスなど検討事項も多
いことから、まず2013年12月中に渋谷‐六本木間で都営バ
スの24時間運行を実施する考えだという。


地下鉄利用者にとっては、一見便利になりそうなニュース
だが、生活に密着している「地下鉄・バス」に関する事柄
だけに、ネット上に寄せられる意見も様々のようです。


そこで、私も一言!


若い頃、東京で学生・サラリーマン生活を過ごした経験が
ある私は、仕事、遊びで飲んで遅くなると、駅まで走り、
終電車に飛び乗ったことが何度もありました。



そんなときの車内には、暗い感じの男と色っぽい和服姿の
女性などがいたりして、それぞれに興味を惹かれてこれらの
人々に見入ったものでした。


サラリーマン風の中年男が突然「畜生!」と口走ったかと
思うとしみじみと演歌の一節を口ずさんだりする姿には
わかる!わかる!と頷いたりもしていた。


終電車全体に充満していたのは疲れ果てた人間が放つ重た
い空気で明るい明日などカケラも感じられなかった。


それでもこの終電車特有の雰囲気を私は好んでいた。
だから上記のような記事を読んだ時は、経済中心に前のめ
りになるばかりのこの国のありようについ溜息が出た。


それは「3.11」を経てなお、経済至上主義で突っ走る
人達への長嘆息でもある。


時を刻むシステムに始まりと終わりがなければ、際限のな
いエンドレス社会である。


そんな世に人間は果たして耐え得るのだろうか。
すでにパソコン、携帯情報機器の普及で、人はどこにいて
もつかまり、人と人とは簡単につながる関係にある。


当然出会いや別れのドラマ性は弱まり、世間の情味も乏し
くなる一方である。


ある人がこう言った。「駅で帰ってくるはずの男を女が終
電まで待って、あきらめて帰って行く。
ドラマだよね。
でもケータイ、メール、それに終電も無いとなれば、駅のド
ラマも消滅だよ。」


終電が出たあとに目にするのは、どこまでも伸びて冷たく
光る2本のレールである。
切なく、寂然たる思いに駆られる情景だが、しかし、そん
な感情こそが心の襞増やし、情を厚くするものと言える。




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