会社の退職勧奨に対して

希望退職とは企業が人件費を削減するために、割り増した退職
金を支払うなどの条件で応募者を募り、社員に退社してもらう
ことである。
主に業績の悪化した企業で実施される。


会社が希望退職に応募した社員に対し「おまえはだめだ」と拒
否できるかどうか。
結論から述べると、答えは「拒否できる」である。


契約は法律上、申し込みと承諾という2つの行為があって成立
する。


要するに私が「この商品を1000円で売ってください」と申し込
み、あなたが「いいですよ」と承諾したら契約が成立するわけ
である。


ところが希望退職の募集は「申し込みの誘引」であって、申し
込みではない。
申し込みの誘引とは駅前で客を待っているタクシーのように、
申し込みを誘う行為を指す。


いわばタクシーの運転手は「この車に乗りたい人はいますか」
と言っているだけで、契約を申し込んでいるわけではない。


希望退職もそれと同様に、申し込みの誘引である。
タクシーの場合、道路運送法によって乗車拒否することはでき
ないが、希望退職の実施にそうした法の制限はないので、自分
たちが望む条件に合わない人を拒否しても構わない。


したがって、会社が「君にはわが社を辞めてほしくないので、
もし辞めるなら正規の退職金は払うが希望退職の割り増し分は
払わない」と言うことは可能である。


また、希望退職が実施される場合、「業務上欠くことができな
い人材については対象外とする」という条件が付けられている
ことが多い。


このため、会社から「希望退職の割増金は払えない」と言われ
たら、基本的にはあきらめるしかない。


一般に希望退職は年齢や勤続年数によって募集範囲を決めるこ
とが多く、能力や実績ではセグメントしないことが多い。


そのため希望退職を実施すると、ほかでもやっていける自信の
ある優秀な人ほど辞めやすい。


「なんでお金を払って優秀な人材を辞めさせなければいけない
のだ」と、外資系を中心に希望退職を批判する経営者が多いゆ
えんである。


そこで全社員と1対1で面接し、辞めてほしくない人に「あなた
には残ってほしい」と伝える一方、辞めてほしい人には「こう
いう制度があるから退職を検討してほしい」と実質的な退職勧
奨を行う会社もある。


「できれば辞めてほしい」と会社が社員に退職勧奨することは
違法ではない。


もし社員が辞めたくなければ拒否すればよい。
しかし、何度も面談を強要したり、執拗に退職を迫ったりする
と違法性を帯びる。


大規模なリストラを行う場合も自分から挙手する人だけでは足
りないので、会社が社員に対して退職を働きかけることが多い。
割増金に使える予算が少ないときも同様である。


希望退職を募っている状況で「おまえはだめだ」と引き留めら
れるような社員は、優秀で相応の実績を残してきた人だろう。


日本企業の実態としてはこうした場合、「かわいそうだから」
と情にほだされて社員に割増金を払うことが多い。


会社が希望退職への申し込みを拒否するのはあくまでよい人材
を引き留めるのが目的である。
その人材を引き留められなければ意味がないのである。


恋愛と同じようなもので、一度「辞めたい」と切り出した社員
は引っ込みがつかない。


会社としてもそのまま置いておくことは難しい。
それに優秀な人が辞めると言い出すときは、たいてい転職先が
決まっている。


結局、引き留めても無駄ならこれまでの貢献も考慮して、「気
持ちよく辞めさせてあげよう」という判断に落ち着くのだ。


従って、、もし希望退職に応募して「おまえはだめだ」と言わ
れたら、退職する決意の強さや「住宅ローンがあるんです」と
情に訴えるのがよいだろう。


新社会人が誕生するこの季節に、かような余りめでたくもない
話題を提供するのは、些か憚られるが、将来の現実を見据えて
おくのも、我が身の保全のためにも有用なこととおもわれるの
で敢えて一言呈しておく次第です。






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